環境計量データの電子化(1)

筆者:一般社団法人日本EDD認証推進協議会
理事
光成美紀


東京都ではヤフー元社長の宮坂副知事が就任し、東京の街全体をデジタル化する方針を打ち出されています。スマートシティや強靭化に向けた街づくりでは、電力需給の最適化だけでなく、社会・経済情報と自然環境の情報を組み合わせることで、社会に役立つ様々なビジネスや政策の可能性があります。
猛暑や台風、豪雨・豪雪など、日本は四季を通じて様々な自然災害があり、気候変動により甚大になることが多く、老朽化したインフラのなか、高齢化社会を迎える日本にとって大きな課題です。気象情報や災害情報などを組み合わせることで、早期の状況確認、通知、予防的措置の実施、被害の拡大防止などが可能になります。
こうした都市のスマート化、強靭化に向けたデータ整備のなかで、不可欠な要素となるのが、環境計量データの電子化です。
本稿では、国内における環境計量データの電子化に向けた取り組みと現状、また海外における先行する取組を紹介します。



環境計量データの電子化とは

《これまでの環境計量証明書》

環境計量データとは、水質や大気・土壌、騒音や振動など様々な環境の状況を測定・分析したデータで、環境計量証明書といわれる書面によって正式に認められるものです。例えば、大気中には光化学スモッグやPM2.5、車両などから排出されるNOxやSOxと呼ばれる有害物質が一定以上含まれると、人体や自然環境に影響がでる可能性があることから、国による濃度基準等が定められています。大気や水、土壌などに含まれる有害物質等の量を測定し、基準を超えないように管理するために、大気や水質など各分野で認定された環境計量士と呼ばれる資格者が、環境分析情報を確認し、資格者として押印して、環境計量証明書を発行しています。
これらの環境計量証明書は、環境計量士が毎回書面に押印することで正式な書面として認められてきたため、広大な敷地の環境計測などを行う際には数百枚、数千枚の環境計量証明書が作成されます。例えば、数年前に話題となった豊洲新市場の土壌や地下水の汚染浄化業務にも、土壌中、地下水中の有害物質の含有量などを測定する書面が数千枚以上作成されました。
こうした環境計量証明書を、紙ではなく、電子形式で納品し、活用することを可能にしたのが環境計量データの電子化です。



《海外で進む環境計量データの電子化》

ハンコ文化のある日本と異なり、海外では、環境計量データの電子化が進んでいます。アメリカでは、環境分析データを行政や第三者が確認する実務も多いことから、電子データの報告フォーマットが規定されていることも多く、電子データでの提出が進んでいます。河川や広大な敷地内などで計測したデータは、位置や深度・測位情報と共にそのままクラウド上にアップロードされ、様々な基準値を遵守しているかどうかも、リアルタイムに近い状態で把握することができます。異常値や法令違反などの確認が迅速にでき、是正・予防措置を早期に講じることができます。
アメリカは環境法令違反の罰金額が高く、また違反した日数に応じて加算されるため、早期の違反発見や是正は、経営リスク上の重要な課題になっています。
近年は計測データをそのまま行政機関に報告することを義務付ける環境規制がアジア各国でも増えてきています。データの改ざんや報告遅れによる被害拡大を抑制することができるため、最新技術の活用が進んでいます。


《我が国における環境分析データの電子化の経緯》

一方、国内では環境データの電子化はようやく始まったばかりです。
当協会の前身となる日本版EDD研究会が2013年に開始し、環境計量分析会社、建設会社等と、海外における環境計量データの電子化の動向や国内での電子化を進める際の課題について協議を重ねました。その後、一般社団法人日本EDD認証推進協議会(JEDAC)を設立し、環境分析データの電子化推進の活動を正式にスタートし、2014年秋に電子化の枠組みができました。しかしながら、環境分析データの最終的な提出先である、都道府県等に電子納品を認めてもらうためには、法的な解釈を確認する必要性がありました。
2015年1月に経済産業省産業技術環境局計量行政室から、電子化推進は政府全体での方針に合致しており、電子化した環境計量証明書も法的にも認められるという見解がだされ、環境計量分析の業界団体である一般社団法人日本環境測定分析協会において、経済産業省の監修のもと、環境計量証明書の電子化のガイドラインの作成に着手しました。2015年10月にガイドラインが完成し、大手環境分析会社等が徐々に環境計量証明書の電子化を進めています。


《現在の環境分析データの電子化と今後の方向性》

現在、環境分析データの電子化としてJEDACが提供している形式は、e-計量と呼ばれる簡易版の電子化フォーマットです。これは、もとの書面による環境計量証明書のPDF形式のデータを環境計量士の電子証明書を使って電子署名し、顧客に電子ファイルとして納品するものです。電子署名をすることで電子ファイルの作成者を特定でき、改ざん検知も可能となります。また郵送料金の削減、封書や書面の押印などの手間が大幅に削減され、使用している環境計量事業者のコスト削減や業務改善につながっています。
一方、海外で普及している環境分析データの電子化、いわゆるEDD(Electronic Data Deliverables)と呼ばれるものは、計測データのデータ形式もテキストや、XML・EXCEL形式などで、数値をそのまま読み取ることができ、いわゆるビッグデータの一部として活用の幅が大幅に広がります。すでにJEDACではこうした数値形式で読み取りが可能なEDDポータルの準備ができており、現在、土壌関係を取り扱う機関で活用が検討されています。
国内外でAI(Artificial Intelligence)の活用が期待される中、すでに自動化された大量のデータがあることにより、AIの学習能力を高め、より精度の高い仕組みの構築が可能になります。米国でAIが進む背景には技術者やIT技術の先行と共に、それにより既に社会で蓄積している大量のデータを活用することが可能であることが背景としてあるでしょう。自然環境や汚染物質等のデータを含め、米国では大量の環境データが電子化されており、一般にも多く公開されています。

環境分析データの電子化によりどのような未来が可能になるのか、次回、その活用事例、海外の先行する政策等を紹介します。


出典:一般社団法人日本EDD認証推進協議会(JEDAC)設立時資料(2014年)

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